エンジニアリング活動で好きな言葉に三現主義があります。三現主義は「実際に現場で現物を観察し、現実を認識する」という問題認識についての考え方です。現場・現物・現実の三つの現から、三現主義と命名されています。
この三現主義はソフトウェアの品質管理/品質保証の活動でも全般的に通用する普遍的なグッドプラクティスです。
その一つとして、ソフトウェア品質リスクのマネジメントで重要な考え方になります。これは、次の2つの理由から、リスクの認識に三現主義が求められるためです。
リスクレベルと実際のリスクの乖離への対応のため
理由の一点目として、ソフトウェア開発における品質リスクは本質的に定量化困難であることが多く、不明瞭で不確実性を伴う点が挙げられます。
というのも、ある程度精度をもって発生頻度・発生確率を定量化できるリスクは、計測を通して統計的にそれらを定量化できるランダム故障など、ハードウェア固有のものが多くなります。ソフトウェア開発におけるリスク事象は、それに該当しないパターンが多く、リスクレベルの判断に主観判断が入り込みやすい傾向があります(法規制の中には、この特徴から、ソフトウェアバグ起因のリスク事象は発生確率100%として評価することを要求するものがあります)。
すなわち、ソフトウェア開発における品質リスクのリスクレベルは、定量管理できるように無理やりレベルに当てはめただけのものが多く、多くの場合でリスクの本質を表現していません。数値化されたリスクレベルと、実際のリスクレベルが乖離している状況に注意を向ける必要があります。
そのため、適切にリスクをマネジメントするためには、特に重大なリスクについて、表層的なリスクレベルだけ見て満足するのではなく、自らの肌感覚で、リアルなリスクの実態を把握しておく必要があります。すなわち、三現主義に基づくリスク認識が求められます。
流動的・潜在的なリスクの兆しに気づくため
二点目の理由として、ソフトウェア開発では、変動制・不確定性が高いリスクの早期認識が求められる点が上げられます。
というのも、金型や製造プロセスなどに縛られるハードウェア開発と違って、ソフトウェアは開発ライフサイクル全体で変更・改善・デバッグが継続されます。そのため開発ライフサイクルを通じてリリース前後でも品質リスクは流動し、かつ不明瞭性・不確定性を含みます。
そのような状況下でコントロールが必要な重大な品質リスクを見逃さないためには、リスクレベルという単純化された値を通して開発を見るだけではなく、実際の生の品質リスクの兆しを把握する必要があります。すなわち、三現主義でソフトウェア開発のリアルを認識し、品質リスクの本質的な兆しを見逃さないようにする必要があります。